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生きる伝説

人は、あまりに常軌を逸した出来事に遭遇すると、脳がフリーズしてしまうという。
これはわたくしが実際に体験した、中学生の頃のお話。

 

第1章 _ 発生

当時わたくしが通っていた中学校では、「移動教室」なるものがあった。
英語の授業を受ける時だけ使われていない別の教室を使用するというもので、理由は不明だった。
正直移動すんのがダルいし、そのまま教室でやってくれよと思っていたのだが、結果的にはこれが思わぬ事件を引き起こすきっかけとなった。

 

 

前の授業を終えて休憩時間を過ごしていたわたくしは、友達のYすけと談笑していた。

 

 

「ニシマって、巨根らしいよ」

 

 

Yすけが切り出してくる。
ニシマというのは、美術を担当している先生だ。
ちなみに巨根であることを確かめる術は教員含め誰にも無いので、これは100パーセント言いがかりであることが分かる。

 

「そうそうそう、通常時で2mあるとか」

「デッッッッッカ」

「だからパンツはNASAに頼んで作ってもらった特注らしいよ」

「NASA?」

 

わたくしたち二人の中には暗黙のルールがあって、話を振られたらさらにその話を盛って返さなければいけない。
このときは結局ニシマの巨根がNASAの新技術開発の研究に使われているということで話が落ち着いた。

 

次の授業が始まるまであと5分。

 

「トイレ行ってくるかなぁ」

「俺も行くわ」

 

中学の時は大体いつも連れションだった。
ちなみにYすけはションベンの出が凄く、「ザケル」という異名を持っていた。
凄く我慢した後のやつは「ザケルガ」らしい。

 

トイレに向かって歩いていると、前のクラスが英語の移動教室で使っていた教室に妙な人だかりが出来ているのが見えた。

見た感じ、何か野次馬のような雰囲気。

 

「ん?何かみんな集まってね?」

「おお、何やろ?」

 

何かいつもと様子が違う。ただならぬ雰囲気がある。
しばらく歩を進めたわたくしたちは、その異変にすぐ気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?…なんか…クッセェ…」

 

 

 

 

 

 

 

あたり一面、異常な臭気に満ちていた。
その臭いを例えるならただ一つ。

 

 

 

 

 

 

 

下痢。

 

 

 

 

 

 

しかも相当腹の調子が悪い時のやつだ。

わたくしは近くに居た友達のなおTをつかまえて聞いた。

 

「なに?このクッセェ臭い」

「いや、分からん。知らん。クッセェ」

 

なおTは狼狽していた。
それもそのはず、なおTは次の時間、英語の授業でこの教室を使うのだ。
そこから下痢としか言いようのないクッセェ臭いが充満していたら誰でも狼狽するだろう。

 

「どこからしてんのこの臭い」

 

Yすけがそうぼやいたかと思うや否や、どこからともなくBショウくんが現れた。

 

「…このへんが特にクセェな…」

 

相当のヤマを踏んできたデカみたいな雰囲気を出しながら、Bショウくんが教室内を捜索する。

みんなそれを固唾を飲んで見守っていた。

 

 

 

――そして、彼はなおTの机の前で立ち止まった。

 

 

 

「ここじゃねぇか…?」

「えっ嘘やろ…?」

 

さらに狼狽するなおT。
Bショウくんはそのまま机を掴み、思い切り手前の方に倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウ★コが出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アァァアァァアァ!!!!

 

 

とりあえずみんな絶叫したが、まだ今ひとつ状況を飲み込めていない。脳がフリーズしている。

なにしろ机からウ★コが出てきたのだ。
こんなこと一生に一度あるかないかの経験である。

 

「ナンデウンコガ…ナンデ…コンナコト…」

「誰…!?」

「なおTおまえ…」

「俺じゃねえ!!ふざけんな!!」

 

しばらく床に落ちたウ★コを眺めていたら、ふいに背後から声がした。

 

「それ、MASSHIの仕業やよ」

 

声の主はNEBくんだった。

NEBくんはMASSHIの隣の席に座っていたのだった。

NEBくんを少し紹介しておくと、彼は軽度の自閉症持ちだった。
わたくしは彼と小学校から一緒だったのでよく知っている。
拳を格ゲーのキャラクターに見立てて「ドンッ!ンッンー!ンンー!!ボガァアァン!」とかやって闘わせてた子だった。授業中に。

そんなだから、みんなNEBくんの声はほとんど耳に入っていなかった。現場を間近で見ていたにも関わらず。
むしろNEBくんが犯人ではないかと心無い言葉を吐く奴も居た。
誰もが疑心暗鬼だ。

それでもNEBくんはMASSHIの仕業だと言い張る。
MASSHIはBショウくんたちと同じ小学校で、話によると相当のくせ者らしい。
チビで出っ歯。そして眼鏡。一見すればウ★コを漏らしそうには見えない。
どっちかというとノーパンで登校したりとか、そっちの方面で活躍してそうな奴だ。

 

依然として騒ぎの治らない教室だったが、無情にもチャイムは鳴る。
事の顛末を最後まで見届けたかったが、先生がやってくるのが見えたのでわたくしとYすけはしぶしぶ退散した。

 

第2章 _ 推理

言うまでもなく、次の授業は全く身に入らなかった。

わたくしは先ほどの「贈り物事件」について推理をめぐらせた。

 

NEBくんが言っていたMASSHIだが、可能性としてはゼロではない。
たしかにMASSHIのクラスは前の授業でその教室を使っていたし、NEBくんの証言によればその机に座っていたのもMASSHIだということだった。

しかしいかんせん、証言者がNEBくんというのがネックだ。
小学生の頃、授業中に教室にあったパソコンでずっとFlashゲームをしていたような奴だ。
言っちゃ悪いが信ぴょう性に欠ける。

 

しかし、しかしだ。
もしNEBくんがウ★コを漏らしたのだとすれば、なぜわざわざ現場に居合わせたのだろうか。
普通に考えて不利である。
100歩譲って放火犯が現場に戻ってくる的な心理であったとしても、MASSHIを犯人に仕立て上げる意味が分からない。
だってMASSHIよりももっとウ★コ漏らしそうなやつはそこらにたくさんいるからだ。

そして、これは個人的な意見だが、NEBくんはそんなクズな奴じゃない。
たしかに変わってるけど、平然と人を売るような奴ではないのだ。

 

 

 

とすれば、答えは一つ。

 

 

 

NEBくんの言うことが正しい。

 

 

 

授業終了のチャイムが鳴ったので、わたくしはすぐさまさっきの教室へと向かった。
ウ★コが投下された所だけ机が退かされていて、なおTは隅の方に机を寄せて座っていた。

 

「いや、マジクセェし…最悪なんやけど」

「災難やったな…ちなみになおTは神に誓って」

「俺じゃねえ!!したくなったらトイレ行くし!!」

 

ぐうの音も出ない正論である。

話していると、前の授業でこの教室を使った生徒たちがやってきた。
わたくしは彼らから事情を聞くことにした。

 

「授業中、なんていうかその…どうやった?」

「急に…」

「急に?」

「…急やったよ、いきなり臭くなって…」

 

女子は嫌悪感丸出しの顔でそう話す。

 

「どこらへんが臭かったの?」

「…Hの方から…」

「そう…Hだよね。そこから…」

 

まるでホラー映画の冒頭で怪奇現象について証言する女子高生みたいな口ぶりで彼女たちは語ってくれた。
ちなみにHはMASSHIの名字である。

 

 

間違いない。

 

 

犯人はMASSHIだ。

 

 

わたくしは確認するためにMASSHIのクラスへと足を運んだ。

 

途中、数学教師のTAKEちゃんマンが神妙な面持ちで歩いていたので声をかけた。
何か事情を知っていそうだったからだ。

 

「先生、あの、英語の教室が…」

「……」

「何かあったんすか」

 

 

 

 

 

 

「…まぁ、ちょっとな…」

 

 

 

 

 

 

TAKEちゃんマンは歩を緩めることなくそう答えた。

わたくしは、この時ほどTAKEちゃんマン、ひいては大人をカッコいいと思ったことはない。
教師として生徒を守らなければいけない使命感。
大人としての苦悩。葛藤。
この時、それを学んだ気がする。

実は全然学んでねーけど。

 

しばらく歩いて、わたくしはMASSHIの居る教室までやってきた。
恐る恐る廊下から中を伺う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MASSHIが机に突っ伏せて泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3章 _ 検証

結局、「贈り物事件」の犯人はMASSHIだということでアンサーが出た。
しかしまだ謎は残る。

第1に、なぜ普通にトイレに行かなかったのか。

これに関しては、「思春期だったから」という理由で説明がつく。

 

第2に、なぜ我慢できなかったにも関わらず下痢ではなかったのか。

机から出てきたウ★コはノーマルタイプだった。
ノーマルタイプのウ★コを我慢できないというのはちょっと理解できない。

これに関しては「MASSHIの肛門が類稀なるユルさを持っていた」という少々強引な解釈をすることでなんとか説明がついた。

 

そして第3の謎。これが最も厄介である。

すなわち、どうやってウ★コを机にブチ込んだのかということだ。

順当に考えれば、漏らしてからパンツに手を突っ込んでブツを掴み、それを机に入れたということになる。
しかしそんな攻めたことをすれば手が死ぬほど汚れるし、NEBくんにバレる。
結果としてNEBくんにはバレた訳だが、彼はその方法までは分からなかった。

女子たちの「急に臭くなった」という証言を考慮すると、やはり上述の方法をとったのではないかと思われる。

 

 

 

「分かった…」

 

 

 

机にブツをブチ込む方法について議論していた最中、Yすけが切り出した。

 

「まず、ノートを一枚千切るやろ。それをケツに敷くんだよ」

「それから漏らす。後はオムツ的な要領で机にブチ込んで完了や」

 

 

わたくしは死ぬほど笑った。

簡単2ステップみたいに言うな。

 

結局、Yすけのそれがファイナルアンサーだろうということで決着がつき、「贈り物事件」は伝説となり、同時にMASSHIも生きる伝説となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく経った中3の秋、今度はわたくしがウ★コを漏らす羽目になるのだが、それはまた別のお話。

 

 

※プライバシー保護の観点から、登場人物には全て仮名を用いています。

Published in ネタ 日記 荒れてた時期

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