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月別: 2018年1月

ソリしてたらいつの間にか知らんジジイの飼い犬を探してた話

人の一生は不思議だ。
何があるかわからない。
この世の大天才を100人集めても、10分後の事すら分かりゃしない。

だから愛そう。人を。人生を。
すべての経験には意味がある。

 

 

*****

 

 

「心臓破りの坂でソリしようぜ!」

 

私はある日嫁に提案した。
心臓破りの坂というのは実家近くの雑木林にある勾配のキツい坂の事だ。
小学校の頃はここがマラソンコースになっていて、私にとっては馴染み深いものだった。

 

「えぇ〜?子供やんか」

 

嫁はいっつもこんな反応をする。

うるせえよ!大は小を兼ねるんだよ!
子供みてーなことして何が悪いんだよ!!
今更巻き返し効くと思ってんのかこの人生!
ナメとんか!?

 

「やかましい、ソリ買いに行くぞ」

 

私は半ば強引に近所のスポーツ店まで嫁を引っ張っていった。
案の定、スポーツ店には子供用のソリしか無かったが、2人で乗れそうだったのでサクッと購入。
レジで子供が「ねぇこのソリ買ってぇ!赤いやつがいい!たのむから!」みたいに駄々をこねていたのを見て、非常に心が痛んだ。

 

「心臓破りの坂ってどこなん?」

 

嫁が不機嫌そうに聞いてくる。

 

「まぁワシについて来いや」

 

こういうときぐらいしかイキれないのだから許してほしい。

実家に愛犬のパルムを預け、私たちは心臓破りの坂目指して出発した。

 

 

*****

 

 

心臓破りの坂は、記憶よりもずいぶんと小さくなって見えた。
きっと私が大きくなったからだろう。
昔はそれこそジジババ殺しの坂に見えたものだが。

 

「雪質は上々!」

 

テンション爆上がりした私は意気揚々と坂を登る。
身長はデカくなったけど体力は落ちたみたいだ。
煙草のせいかタンがメチャクチャ絡む。

 

「いくぞ!目にやきつけろ!」

 

私は勢いよく滑り出した。
思ったよりスピードが出たのでビビったが、想像通りソリはクッソ楽しかった。

 

「次2人乗りな!」

 

嫁を坂の上まで連れてきて、ソリに乗りこむ。

 

「ちょっと待って、せっま、もっと前いけんの?」

「おれもいっぱいいっぱいなんやって」

 

いくら小柄な女とはいえやはり子供用ソリに2人乗りはキツい。
なんとかケツを押し込んだ私たちは、ゆっくりと発車した。

 

「すげぇ!1人の時より速ぇ!」

「待って!あぶない!何あの石?!」

「ウェッ!?」

 

 

目の前に、こんな石がそびえていた。
このスピードでぶつかればただではすまない。

 

うわあぁあああぁああ!!」

 

激突した。
幸い、2人とも怪我はなかったがかなりの衝撃だった。

 

ハハハハハハハ!!」

 

私たち2人は爆笑した。
夫婦仲が悪くて困っているという方にアドバイスしたいのだが、こういう風にもっとIQを落として生活すべきだと思う。
自然と笑える。

 

「もう一回いこう!もう一回!」

 

嫁もテンションが上がってきたようで、そのまま何度か2人で滑った。

 

 

ちなみにこいつにはその後もう一回激突し、私はスネを強打した。

 

 

*****

 

 

2時間ほどソリを堪能し、車をもっと坂の近くまで持ってこようと砂利道を歩いていた時だった。
嫁が前方に何かを発見した。

 

「あっ!可愛い!ワンちゃんや!」

 

見てみると、フカフカのまだ若い柴犬の姿が見えた。
どうやら散歩中のようだ。

 

「ハァ゛クソ可愛いな〜」

「あれっ…?」

 

嫁が何かに気づく。
注意して見てみると、ワンちゃんと飼い主のおじいちゃんとの距離が開きすぎている。
いくらなんでもあの長さのリードは無いだろう。
8メートルくらい離れていた。

 

「あんな長いリードある?」

 

少しずつワンちゃんに歩みを進めていくうち、ハーネスは付いているがリードが付いていないことが判明した。

 

オイオイマジか。
平成の時代、まだこんなに自由な人がいるとは。

 

「大丈夫大丈夫、悪いことしねぇから!」とおじいちゃん。

 

そうか。まぁそれならいい。
知らんけど。

それにしても、離れすぎじゃないか。
ワンちゃんどっかいっちゃったよ。

 

文章では説明しづらいので下手くそな絵で表すとこんな感じ。
悠に30メートルは離れている。

 

「いつもは町へは行かねぇから!」

 

ゴリゴリのフラグを立てるのはやめろ。
まぁ飼い主が言うならそうなんだろう。

 

「んっ?…おらんくなったけど…」

「えっ?」

 

当然のごとくワンちゃん逃亡。

 

「あれ?おかしいな?チェロォオ!!!」

 

おじいちゃんが声を張り上げるが、依然としてワンちゃんの姿は見えない。

 

「おい!!チェロォオオォオ!!」

 

一面の雪景色と相まって、さながら南極物語みたいな雰囲気が出てくる。
しかもおじいちゃんは杖を持っていたので尚更冒険家感が増す。

 

「オォオイ!!チェロオォオオ゛ォ゛!!」

 

おじいちゃんはずんずんと雪の中を進んでいく。

 

「ねぇ、車で町まで探しにいこう」

「それが良い」

 

私たち2人は車に乗り込み、街へと繰り出した。

 

 

*****

 

 

住宅街に入ると、雪かきしていた住人たちがみな怪訝な顔をしていた。
そりゃハーネスつけた柴犬がそのへん歩いてたら妙だなと思うだろう。
私でも思う。

 

「ん?オイ、おったぞ!」

 

はるか遠方に、「何が悪いん?」みたいな顔して立ちすくむワンちゃんの姿が見えた。
すぐに車で駆け寄り、保護に向かう。

 

「おいで!ほら!」

「悪いことは無いから!カモン!」

 

しかしワンちゃんは警戒心が強いのか、ドン引き顔で私たちの前から立ち去ってしまった。

 

「オォ゛オォ゛オ゛オォオーイ゛!!チェロォ゛ー!!」

 

雑木林の方からおじいちゃんの声が聞こえたので、私はそちらに駆け寄った。

イバラの木を掻き分けて急な坂を登ろうとしているおじいちゃんを見て、私は明日の朝刊に何らかの記事が載るのではないかとヒヤヒヤした。

 

「いやぁ、すいません…。いつもはこんなことないんやけどな」

「あれ?アイツ(嫁)どこいったかな?」

 

そう言うや否や、嫁がT字路を左から右に爆走していった。

 

「金丸!あっち行った!車を頼む!」

 

嫁はそう言い残すと、住宅街の中に消えて行った。
私は乱暴に路駐された車を動かし、嫁の後を追った。

 

 

*****

 

 

車を走らせて嫁の姿を追うが一向に見つからない。
加えて、私はちょうどその時スマホを嫁に預けていたので連絡も取れなかった。
まさか平成30年にもなって、こんなクソアナログな方法で人探しをするとは思いもよらなかった。

途中、飼い主のおじいちゃんが居たけどなんとなくスルーした。
まずはワンちゃんの保護が第一だと考えたのだ。

しかし、いくら町内を回ってもワンちゃんどころか嫁の姿すらない。
そうこうしているうちにまたおじいちゃんの姿が見えたので、私はハザードを点けて車を路肩に停車した。

 

「ワンちゃんどこ行きましたかね?」

「ウーン…さっきあの女の子が走ってるのを見たよ」

 

あの女の子とは嫁のことだろう。

 

「とにかく、乗ってください」

「いやぁすまんね…」

 

おじいちゃんを車に乗せる。
潔癖症の嫁はキレるかもしれないが仕方ない。

 

「もしかしたら家に居るかも…チョット行ってみてくれんか?」

 

おじいちゃんがそう言うので、案内に従って車を走らせる。

いやいやいや、さすがにそんな、サザエさんでありそうな話みたいなことは無いだろ。
若いからってナメないでほしい。
散歩中に突如逃亡したワンちゃんが勝手に帰宅しているなんてそんな面白いこと、なかなか遭遇できるものじゃないんだから。

しかし、これで家に帰ってなかったとしたらメチャクチャダルいことになる。
嫁とワンちゃん、この2人を探さなければいけないのだから。

 

「あの家や」

 

ワンちゃんが居そうな気配はない。
わたしはゆっくりと車を近づけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オラァア゛アジッジイ゛イィ゛クソォオ゛ォア゛アァ゛ーィ゛!!!

 

「ナメとんか」とマジで思った。
何先に帰ってんねん。

 

「いやぁ良かった〜ありがとうございます!」

 

おじいちゃんは私に礼を言った。
せっかくなのでワンちゃんを撫でてみたが、想像以上にフカフカでクソ可愛かった。
なので許した。

しかしまだ問題は残る。
今度は嫁が行方不明だ。

わたしはとりあえず車を動かし、実家の方へ向かうことにした。
長い旅になるかと思ったが、意外にも道中アッサリと嫁と出くわしたので拾った。

 

「ワンちゃん見つかったぞ!」

「ハァ?!ポンコツやろあのワンワン!!」

 

そういうわけで、そのワンちゃんを私たちはポコの助と名付けた。
嫁がポコの助を一目見て撫でたいというので家まで案内すると、ちょうどおじいちゃんが玄関に立っていた。

 

「いやぁ先ほどはありがとうございました」

「いえいえとんでもない」

「ワンちゃんの名前なんていうんですか?」

「ラン」

 

えっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェロ」って何…?

 

 

 

※チェロことポコの助ことランちゃん(♀)

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