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スクールライフ

わたくしの通っていた中学校には、”スクールライフ”という日記みたいなものがあった。
時間割を書く欄と、その日一日の出来事を5行程度で簡単にまとめる欄とがあり、毎日提出が義務付けられていた。

自己管理が出来るように教育するためのものだろう。
もしかしたら名称は違えど、皆さんの通っていた学校でもこういうものがあったかもしれない。

今日は、この”スクールライフ”をめぐる一連の事件について話そうと思う。

 

 

*****

 

 

わたくしは文章を書くのが好きだ。
とりわけ日記を書くのが大好きで、小学校のころからyahoo!ブログとか開設して色々書いていた。

大学ノートに書いていた時期もあったし、ブログを5つも6つも乱立させることもあった。

 

そういうわけで、みんなが提出を面倒くさがっていたこの”スクールライフ”も、まぁまぁそこそこ真面目に書いて提出していた。

 

 

――中二になりYすけと出会うまでは。

 

 

どういうわけか、わたくしとYすけは笑いのツボがぴたりと一致していた。
初めて二人で大爆笑した話題は、「ルイージマンションで、おばけにライトを当てた際の”チン!”っていう音とその後に訪れる一瞬の間が面白い」というもので、これは二人にしか理解できなかった。

 

 

 

あの頃はいつも退屈だった。
授業中でもずっとずっと退屈だった。

わたくしたちはそれを嫌って、ありとあらゆるものをおもちゃにして遊んだ。
冒頭の”スクールライフ”がおもちゃにされるのにも、そう時間はかからなかった。

 

はじまりは、Yすけの一言からだった。

 

「オイ金丸、スクールライフを一日交換せんか?」

 

わたくしは聞いただけでゾクゾクした。
なにかとても楽しいことが始まるんだと胸が高鳴ったのを今でも覚えている。

 

「ガッテン承知の助」

 

わたくしはなんのためらいもなく、Yすけにスクールライフを渡した。

 

 

*****

 

 

家に帰ってから、Yすけのスクールライフを覗いてみる。
ほとんど1行しか書いておらず、内容も「数学が難しかった」とか、「体育が楽しかった」ぐらいのことしか書いていない。
そこには、内なる狂気を決して表面には出さないYすけの巧妙さがありありと浮かんでいた。

先生からもらえる一言コメントには「もうちょっと何か書きましょう」とか書かれていた。
書いたところでなんの名誉があるというのか。

 

しばらくYすけのスクールライフを見ていたわたくしだったが、本来の目的を思い出し、仕事に取り掛かることにした。
わたくしはペンをとって、手始めに

 

「今日はウ★コが100リットルは出ました。」と書いた。

 

初日だしあまり飛ばしすぎてもいけない。
このぐらいが限度だろうとスクールライフを閉じてから、なんだか物足りない気がしたので、時間割の欄をすべて体育にしておいた。
得も言われぬ満足感を感じたわたくしは、そのまま床に就いた。

 

 

翌日の放課後、スクールライフが返却されてきた。
わたくしはまるでクリスマスプレゼントを開ける子供のような笑顔でスクールライフを開いた。

 

そこにはデカデカとした汚ったねぇ字で「2tのウ★コがでた」みたいなことが書かれていた。

まさかのネタ丸被りに、わたくしは天を仰いで爆笑した。
二人の脳はつくりがとてもよく似ているのだ。どちらも必要なネジが同じところ同じ分だけ足りていない。

Yすけのほうを見てみると、彼もまた天を仰いで爆笑していた。

 

 

わたくしたちは、この危険な遊びに心底ハマってしまった。
もう授業どころではない。
Yすけのスクールライフに何を書こうか、一日中そればかり考えていた。

 

「今日もやろうぜ」

「言わんくても分かっとる」

 

まるでヤクの売人とその客のような怪しい雰囲気でスクールライフを交換する。

 

この頃になってくると、書く内容もかなり過激になってきた。

「今日、僕のチ★コが神龍になりました」とか、「オナレオ – 実に気持ちいい / 第一話 摩擦る(こする)」とか、もはや学校に提出しているということを完全に忘れていた。

また、内容の過激さに比例して筆跡もメチャクチャになっていたので、先生からのコメントも「なんて書いてあるの?」とかになってきていた。

しかしこれは逆に好都合だ。なぜなら解読された場合、最悪三者面談もあり得るからだ。

 

しばらくチ★コとウ★コで楽しんでいたわたくしたちだったが、一向にマンネリ化する気配が無い。
こんなもん2日で飽きそうだが、わたくしたちは2週間以上にわたってこの危険な遊びを続けていた。
中学生と言う年齢がそうさせるのか、そもそも二人の脳がそういう作りなのかは分からなかった。

内容は日に日にひどくなり、もはや一種のチキンレースの様を呈していた。

 

 

――そして、わたくしたちはついに超えてはいけない一線を越えてしまう。

 

 

*****

 

 

その日の放課後もいつものように、わたくしはワクワクしながらスクールライフの返却を待っていた。
今日はどんなことが書いてあるのか…目をキラキラさせながらスクールライフを受け取ったわたくしだったが、そこには予想だにしないものが書かれていた。
否、描かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑色の表紙に油性マジックで、デカデカとリアルなチ★コの絵。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたくしは一瞬、冷や汗をかいた。
その後間髪入れずにクソ笑った。

まさか表紙にまで出張してくるとは夢にも思わなかったからだ。

 

「おまえ、これどうするん?!油性で書くなや!」

「大丈夫やって、金丸。ここに修正ペンがあるやろ?」

「おう…」

「これをこうすれば」

 

Yすけはチ★コの先端から無造作に修正ペンを走らせた。
誰もそうしろとは言ってない。
ついでに、もう何も言うことは無い。

表紙に書かれた“School Life”の文字が、やけに気の利いた皮肉に見えた。
こんなもんが学校人生でたまるか。

 

もうわたくしたちは、引き返せない領域にまで足を踏み入れていたのだ。
そして、本当の地獄はここから始まる。

 

 

*****

 

 

表紙にまで落書きが出張したともなれば、もうあとはなんでもアリである。
わたくしも負けじとYすけのスクールライフの表紙に鼻くそを捻じりつけ、それを乾かしてから丸で囲んで「ハナクソ」と一文を付したりした。

 

今思えば一番の被害者は担任の先生だったと思う。
日に日に狂人のノートと化していく二人のスクールライフに、何か一言コメントを残さなければいけないのだから。

 

 

わたくしのスクールライフの成分が8割がたチ★コの絵で汚染されてきた頃、事件は起きた。

 

「金丸、放課後に先生のところに来なさい」

 

そう、担任の先生に言い渡された。
わたくしは観念したと同時に、呼び出されたのがこの先生で良かったと胸をなでおろした。

というのも、わたくしたちの担任であるこのGAKIという先生は小柄なおばあちゃんで、皆の心の拠り所となる母のような存在だったからだ。

今思えばそんな先生に毎日合法的にチ★コの絵を見せていたのだから、わたくしたちの罪は計り知れない。
あっ、ごめん別に合法じゃなかったわ。

 

「おいGAKIに呼び出し食らったぞ」

「俺もや。やっぱチ★コの絵はやばかったかな…。」

 

たしかに決定打としてはそうだろうけど、それ以前からしてあのスクールライフは終わっていた。

 

「何言われるんかなぁ」

「ちゃんと書けとかじゃね」

「今更。お前油性で書いたやん」

「悪ィ…」

 

この時のわたくしは、ただただガッカリしていたように思う。
爆笑の末ワンダーコア並みに腹筋を鍛えられるあの遊びが、もう出来なくなるのだ。
悲しかった。

 

 

*****

 

 

指定された時間に指定された教室に赴くと、そこには悲しそうな目をして静かに座るGAKIの姿があった。
GAKIはわたくしたちを諦観したように眺めていたが、少しして立ち上がった。

ただならぬ雰囲気から、もしかして別件かもしれないという疑念が胸に広がってくる。
Yすけを一瞥すると、彼もまた同じ気持ちのようで、下唇を噛んで緊張をごまかしている。

 

「あんたら…」

 

ついにGAKIが口を開いた。
わたくしは心の中で「南無三…」と唱えながら、視線を自分のつま先に向けた。

もう、どんな台詞が来ようとうろたえない。
来るなら来るがいい。
すべての因果はやがて自分に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたら、イチモツ描いとるんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?!
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脳から変な汁が出たのが分かった。
そして襲い来る笑気(しょうき)。
わたくしは後ろ手に組んだ右手で左手の甲をおもくそつねった。
それでも口元はニヤけていたように思う。

脳がGAKIの台詞を理解しきれず、何度も何度も反芻する。

 

「『描いとるんか?』ってなに?」

そりゃ描いたよ。火を見るより明らかだ。

 

「『イチモツ』ってなに?」

厳密には言葉の意味は知っている。そちらのほうはぬかりない。
でも、なんでこの局面でその単語をチョイスしたんだろう。

 

「呼び出して何がしたいの?」

もう、イチモツは描くなと言いたいんだろう。

 

GAKIの「あんたら、イチモツ描いとるんか?」という台詞に、余計な文は一切含まれていない。
むしろ洗練され、その場にピッタリと合う台詞だから面白いのだ。

そんな台詞を言われる状況を作り出した自分たちが滑稽でたまらないのだ。

 

「グッ……はい…」

 

わたくしはそれだけ答えるのが精いっぱいだった。
それより気の利いた台詞が浮かばなかったのだ。

一応反省しているようには見えたと思う。

 

その後、GAKIが何か付け加えて注意していたように思うが、まったく記憶に残っていない。
あの当時、わたくしたちにとって「イチモツ」はパワーワードすぎたのだ。

 

 

*****

 

 

この台詞は今でも強烈に頭の中に残っている。
Yすけとこの話題になると、いつも二人して大爆笑してしまう。

 

 

――「あんたら、イチモツ描いとるんか?」

 

 

先生。
今も昔もこれからも。
ぼくら二人は描き続けるつもりです。

 

 

おしまい。

 

 

※プライバシー保護の観点から、登場人物にはすべて仮名を用いてあります。

Published in ネタ 日記 荒れてた時期

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