ナメ

しっかりじぶんの足で立っている皆さんには縁の無い話かもしれないが、わたくしはよく人からナメられる。

家で、職場で、そして飼い犬にもナメられる。
奈良鹿公園に行ったときも、鹿たちは他の人に見向きもせずなぜかわたくしにだけ向かって頭突きしまくってきた。

あと、5コ下の友達の弟にもナメられて、コンビニで買ったおやつを横取りされたこともある。

この有様であるから、もう人やそれ以外の動物からナメられるのは慣れっこになってしまった。

しかし、わたくしはもっとツラいナメを食らった人を知っている。
今日はその人の話をしよう。

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中学3年のとき、わたくしたちのクラスを受け持っていたSという先生が居た

この先生は非常にアクが強く、意味不明なタイミングでガチギレしてくるという暴君だった。

一番意味が分からなかったガチギレは、親友のTAKUがただ廊下でSと目を合わせただけで胸ぐら掴まれたというエピソードだ。
それを間近で見ていたわたくしは、大人の抱えている途方も無い闇を目撃した気がして、心底肝を冷やした。

あと、合唱会か何かで一位を取ったらクラス全員焼肉に連れて行くと豪語し、実際一位を取ったら途端に約束を有耶無耶にしたこともあった。

あいつガチでクソやな。

そんなSだったから、みんなからは蛇蝎の如く嫌われていた。
特に女子に対するえこひいきがひどかったので、男子から死ぬほど嫌われていた。わたくしも嫌いだった。

すぐキレるし怖ぇし。

そして、ついたあだ名が「サカSHA」。
由来は今でも不明だが、良い意味は含まれていないように思う。

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中学3年の春休み。
桜舞い散るこの季節、わたくしのクラスではある催し物が計画されていた。

「みんなでサカSHAにビデオレターを送ろう!」

pubしまが切り出す。
彼女はいわゆるおてんば元気娘的な立ち位置で、アニメでいうと主人公の幼馴染の親友みたいな奴。
「みんなでやろう!」がモットーらしく、とにかく大人数でワイワイやるのが好きな奴だった。

虚空を見つめながら前歯の裏をベロで舐め回すのが日課のわたくしとは正反対の性格である。
それでも、なぜかわたくしたち2人は仲が良かった。

それにしても、あのクソ野郎サカSHAにビデオレターを送ろうとは、なんと人間の出来た中3だろうか。
まぁ、皆に大人のクソな面を学ばせてくれたという功績を考慮すれば妥当かもしれない。

「金丸、カメラ持ってたよね?!」

「うん、あるよ」

「じゃあ次の日曜日みんなで健民公園に集まろう!そこで撮影しよう!」

「いいっすよ」

こうして、サカSHAへのビデオレター撮影が決定した。
思えばこの時から、危惧すべきだったのかもしれない。

まさかあんなことになるなんて。

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当日。
総勢20数名のクラスメイトが集まった。
予定があったりして来れない生徒は、メッセージを録音して送ってもらうことになっていた。

撮影の前にレクリエーションとして”逃走中”をして遊んだのだが、今回の話には関係ないので割愛する。
また後日改めて詳しく話そうと思う。

「よーし、じゃあビデオレター撮るよ!」

pubしまが張り切って指揮する。
カメラマンはわたくし。

「先生、今までありがとうございました!モスクワに行ってもお元気で!」

当たり障りのない内容である。
サカSHAは何のためか知らないが、わたくしたちの卒業と共にモスクワに行くことが決まっていた。
ただ、みんな彼が嫌いだったので興味は乏しい。

「先生の授業、わかりやすかったです!今までありがとうございました!」

まるで英語の教科書に出てくる例文みたいだ。
ちなみに彼の授業は言うほど分かりやすくない。

一回、板書の字が汚い事を女子生徒に指摘された時、普通にキレてその時間は板書もせずただ喋るだけの授業になったこともあった。
本当にクソだと思う。

まぁ、その女子も「もう少し綺麗な字で板書して下さい」とか言えばいいものの、デカイ声で「汚ったねぇ字!!」と叫んだからっていうのもあるけど。

「先生から教えてもらったことは忘れません!」

嘘つくな。彼女とか出来るタイミングで忘れるだろ。

「いつも先生のギャグに笑わせてもらってました!」

いやいや。ギャグって。
「当たり前田のクラッカー」とかやぞ??
クソやろ。

「モスクワ行ったら写真見せてください!」

二度と会う気もないくせに、弱冠15歳で男たらしかよ。
見上げたもんだねぇ。

1人につき1〜2分ほどの短いメッセージを次々撮影するわたくし。
1クラス分集めても一時間に満たないビデオレターってなんなん。

「次おれかぁ〜」

友人のカスDがヘラヘラしながら近づいてくる。
こいつはメチャクチャモテそうな顔してるうえに、言動が小学生そのものというリア充路線まっしぐらな奴だった。
カスDと呼ばれているのも、その言動があまりにお粗末なためである。
中3になっても「シュッ!シュッ!ホッ!デュクォオオォン!」とかやるやつだった。

「おー、カスD、撮るぞー」

カメラを構えるわたくし。カスDは相変わらずヘラヘラしている。

フォーカスを合わせ、録画ボタンを押し、合図の声を出した次の瞬間だった。

「よお、サカSHAァ!wwww」

は?

今なんつった?

「まぁ怖かったけど…ヘッヘッwwがんばれやww」

そこで彼はフレームアウトした。

オイオイオイオイ
ナメとらん?

いや、考えてみれば、カスDはいつも理不尽な理由でサカSHAにシメられていた。
教室の床にロボコンの部品が落ちていたというだけでガチギレされていたし、しかもその犯人はカスDではなくわたくしだった。
ビンタを食らっている姿も見たことがある。理由は不明。

しかしカスDよ、お前いつもあいつに怯えていたじゃないか。
その場からサカSHA居なくなったら散々disってたけど。

「お、おい、カスD…いいんか?これ…サカSHAに渡すんやぞ…」

「いやだってあいつwwwどこけ?モスクワ?行くんやろ?www」

彼は間違っていない。
少なくとも世の仕組みは理解している。

この話でわたくしが特に好きなのが、カスDの「まぁ怖かったけど」という台詞である。
素直にどう思っていたかを言う純粋さが憎めない。
ここで「テメェなんて全然怖くなかったわ!アホーー!!」とか言ってたら、わたくしはカスDを殴っていたと思う。

*****

その後、誰に託したかは忘れたがビデオレターはDVDに焼かれてサカSHAの手に渡ったようだ。
彼はちゃんと最後まで見たのだろうか。

ちなみにこの話はわたくしの鉄板になっていて、Yすけは何度聞いても涙を流しながら爆笑する。