1月の読書

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・川瀬 慈 / ストリートの精霊たち

エチオピア、アムハラ州にあるゴンダールに滞在し、ストリート(路上)を通してその文化に触れ、回顧する一冊。
ゴンダールの治安は決して良くない。日本に比べるといろいろなものが劣悪である。貧しくて、汚くて、騒々しくて……しかし筆者は、そこに激しい郷愁を覚えてならないと語る。あのストリートに渦巻く温度が、遠く離れた日本に居る彼の心を掴んで離さないのだと。
ゴンダールに存在する宗教、思想、音楽を、筆者は人類学者としてではなく、あくまでも一個人として体感する。激しい郷愁の根源はおそらくここだと僕は思う。誰しもが実家に帰ると丸裸の自分で居られるように、川瀬氏もまた、ゴンダールのストリートでは裸の人間でしかなかった。すべての肩書を捨て、自分もストリートの一員として没し生活した日を懐かしむのは、当然のことだと言えるだろう。
本書に登場する「精霊たち」は、みんなとても人くさい。ストリートはいわば、人工のジャングル。そこで生き抜くためには、良いも悪いも無い。ただ生き抜いたものが正しい。それが彼らを人くさくさせる。僕も歳食ったら訪れてみようかな。そんで伝統食のインジェラでも食おう。

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・中村文則 / 土の中の子供

そこそこ名前を聞く作家だったので、古本屋で見かけたときに興味本位で買った。芥川賞受賞作品だそう。
現代作家のものは、何といっても読みやすい。普段は海外の作品やら日本の古い作品やらばっかり読んでるので、スラスラと読めた。
田中慎弥もそうだったけど、作家にとってやはり「カルマ」とか「魂」とか不変のものに抗う人間を描くのは、一種登竜門的なところがあるんだろうか。
「土の中の子供」は全体的に暗くて陰惨としてて、でもどこか常に薄明りの差しているような、そんな作品だった。ラストをどう捉えるかによってまたイメージが違ってくるんだろうけど、僕はとりあえず前向きに捉えておいた。

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・ヴィクトール・E・フランクル / 夜と霧

ナチスの強制収容所をたらいまわしにされた精神科医、フランクルの回顧録。
本書は、強制収容所での暮らしの凄惨さを糾弾するものでは決してなく、あくまでもそこで過ごす人々(主にフランクル自身)の内面的な動きについて考察されたもの。フランクルは精神科医であるが、本書は別に学術書的な趣は無く、誰か読んでもためになるものになっている。
明言に次ぐ名言、理解を超越したフランクル自身の実感は、「生きる」ことの真の意味を顕現させる。「人生に生きる意味を問うてはならない、我々が人生に意味を与えるべきだ」とか、「人間とは、ガス室を発明した存在だ。しかしまた、ガス室に入っても、平然と祈りの言葉を口にできる存在だ」とか。
何かに躓いた時、何度も読み返したくなるような、そんな良い本だった。

12月の読書

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・ギ・ド・モーパッサン / 脂肪の塊 ロンドリ姉妹 (モーパッサン傑作選)

階級を充てられた人間の持つむき出しのエゴイズムに焦点を当てた中編『脂肪の塊』と、旅の追憶を甘美に描き出した中編『ロンドリ姉妹』。他短編多数。

まず『聖水係の男』でほろっとした。「パパのピエール!ママのジャンヌ!」というこの台詞、言い回しがドラマチックで、読んだ直後に「ああいい話だなこれは」と思い、続けて読み返した。

表題作にもなっている『脂肪の塊』は、人間の持つ露骨なエゴイズムに直に触れた女性の不幸を描いたものだが、むき出しの人間味は悲壮感というよりもむしろユーモラスに思えた。最期にさめほろと無くブール・ド・スュイフ(脂肪の塊)が、センチメンタルに心を犯された滑稽な女のように見えた僕は、薄情者だろうか。
正しいとか、間違っているとか、道徳とか倫理とか、そういうものを抜きにした人間本来の魂、それを垣間見た気がして心底愉快だった。人間、かくあらねば人間とは呼べまい。

『ロンドリ姉妹』は、ユーモラスな雰囲気をベースに、イタリア旅行の際に出会った美しい娘との邂逅を追想する物語。
男という生き物の、女という生き物の、生物学以上の違い。男は何を想い、女は何を想うのか。
この作品は、距離感がものすごくよかった。誰かの又聞きと言っては遠すぎ、かといって実体験と言えば近すぎる。文学作品と言っては味気ないし、映画に形容するのは気が利かない。つまり、気を許した自分の友人が、ひと夏の間にこっそり作った秘密を打ち明けてくれた時のような、本当にちょうどいい距離感が保たれている。
そして何と言っても最後の一文が良い。僕も男だ、分かるとも。

『持参金』は、新婚の女性が旦那に金を根こそぎ持ってかれて途方に暮れると言う、ただそれだけの話。スピード感が凄い。そして男にぞっこんとなった女性にのみ宿る乙女性の片鱗たるものを感じさせてくれた。
中島らもは、恋のことを「病気」と言ったが、それはあながち間違っていない気がしないでもない。僕としては、それではあまり直喩にすぎないかとクエスチョンを挟んでやりたいところだけど。

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12月に読めたのはこの一冊のみ。何をしていたか忘れたが、ともかく、あまり読書に割く時間が無かったようだ。

11月の読書

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・ギ・ド・モーパッサン / 女の一生

修道院を出たばかりの無垢な少女、ジャンヌを主人公に、波乱に満ちた一個の『女性』を描いた作品。

めちゃくちゃ面白かった。とことんまで不幸になっていくジャンヌに追いつけない苛立ち、女性のカルマ、そういうものが凝縮されていて、一冊で十冊も読んだ気分になった。
女性というのは、男一人で幸福になることも、不幸になることもできる。それはいつの世も変わらない。ジャンヌが幸福になれず、不幸の裡にその生涯を終えることになったのは、ある意味当然であるとも言える。彼女は何もしていない。何もしていないから、不幸になった。それだけの生涯だった。

どれだけ悔しくとも、それが人生。それ以上でも以下でもない。不幸は不幸のまま、幸福は幸福のまま過ぎ去っていく。
ラストの台詞が印象的で、言葉に詰まった。

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・中島らも / 世界で一番美しい病気

夏に読んだ中島らもの再来。内容カブってるところもあったけど、基本読んでないものばっかりだったので良かった。
今回、爆笑まではいかなかったが、それなりに笑った。特に「モテてる奴への嫉妬」みたいなのには、共感した。モテてる奴全員地獄に落ちろ!!堕ちろって!!堕ちてください!!

あと、ファンの美少女を抱いた話で、中島のEDが発覚し、勃たないならせめてと丁寧な前戯によって彼女を満足させていたが、EDが治って男根がバキバキになって喜んでた矢先にフラれた話は意味わからなさすぎて笑った。女の子側がEDにしか興味の無い子だったというオチだったけど、そんな人本当に居るのか。

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・三島由紀夫 / 不道徳教育講座

クッソ面白かった一冊。三島独自のユーモラスな視点で、世の倫理観や道徳観をバッサバッサ切っていく痛快なエッセイ。
印象に残ったのは、「肉体的教養」とかいう造語。いっぱしの男が精神的教養を身に着けているのはもちろんだが、それと同様、太鼓腹を自慢げに叩いて見せるのを良しとしない肉体的教養も身に着けて然るべきだ、みたいな論。目から鱗だった。
他にも、「知らない男と酒場へ行け」だの、「弱いものはいじめろ」だの、「女は殴れ」だの、莫大な数の批判の投書が三島の元へ届けられたことが安易に想像できるものばっかりで最高だった。

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mzfkさんと一緒に仕事をしていると会話がメインになるので、あまり本が読めない。だから小説はあまり読めなかった。
家に帰ってからはモンハンに誘われたりするので、わずかな時間を見つけて読んだ感じ。