12月の読書

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・ギ・ド・モーパッサン / 脂肪の塊 ロンドリ姉妹 (モーパッサン傑作選)

階級を充てられた人間の持つむき出しのエゴイズムに焦点を当てた中編『脂肪の塊』と、旅の追憶を甘美に描き出した中編『ロンドリ姉妹』。他短編多数。

まず『聖水係の男』でほろっとした。「パパのピエール!ママのジャンヌ!」というこの台詞、言い回しがドラマチックで、読んだ直後に「ああいい話だなこれは」と思い、続けて読み返した。

表題作にもなっている『脂肪の塊』は、人間の持つ露骨なエゴイズムに直に触れた女性の不幸を描いたものだが、むき出しの人間味は悲壮感というよりもむしろユーモラスに思えた。最期にさめほろと無くブール・ド・スュイフ(脂肪の塊)が、センチメンタルに心を犯された滑稽な女のように見えた僕は、薄情者だろうか。
正しいとか、間違っているとか、道徳とか倫理とか、そういうものを抜きにした人間本来の魂、それを垣間見た気がして心底愉快だった。人間、かくあらねば人間とは呼べまい。

『ロンドリ姉妹』は、ユーモラスな雰囲気をベースに、イタリア旅行の際に出会った美しい娘との邂逅を追想する物語。
男という生き物の、女という生き物の、生物学以上の違い。男は何を想い、女は何を想うのか。
この作品は、距離感がものすごくよかった。誰かの又聞きと言っては遠すぎ、かといって実体験と言えば近すぎる。文学作品と言っては味気ないし、映画に形容するのは気が利かない。つまり、気を許した自分の友人が、ひと夏の間にこっそり作った秘密を打ち明けてくれた時のような、本当にちょうどいい距離感が保たれている。
そして何と言っても最後の一文が良い。僕も男だ、分かるとも。

『持参金』は、新婚の女性が旦那に金を根こそぎ持ってかれて途方に暮れると言う、ただそれだけの話。スピード感が凄い。そして男にぞっこんとなった女性にのみ宿る乙女性の片鱗たるものを感じさせてくれた。
中島らもは、恋のことを「病気」と言ったが、それはあながち間違っていない気がしないでもない。僕としては、それではあまり直喩にすぎないかとクエスチョンを挟んでやりたいところだけど。

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12月に読めたのはこの一冊のみ。何をしていたか忘れたが、ともかく、あまり読書に割く時間が無かったようだ。

11月の読書

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・ギ・ド・モーパッサン / 女の一生

修道院を出たばかりの無垢な少女、ジャンヌを主人公に、波乱に満ちた一個の『女性』を描いた作品。

めちゃくちゃ面白かった。とことんまで不幸になっていくジャンヌに追いつけない苛立ち、女性のカルマ、そういうものが凝縮されていて、一冊で十冊も読んだ気分になった。
女性というのは、男一人で幸福になることも、不幸になることもできる。それはいつの世も変わらない。ジャンヌが幸福になれず、不幸の裡にその生涯を終えることになったのは、ある意味当然であるとも言える。彼女は何もしていない。何もしていないから、不幸になった。それだけの生涯だった。

どれだけ悔しくとも、それが人生。それ以上でも以下でもない。不幸は不幸のまま、幸福は幸福のまま過ぎ去っていく。
ラストの台詞が印象的で、言葉に詰まった。

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・中島らも / 世界で一番美しい病気

夏に読んだ中島らもの再来。内容カブってるところもあったけど、基本読んでないものばっかりだったので良かった。
今回、爆笑まではいかなかったが、それなりに笑った。特に「モテてる奴への嫉妬」みたいなのには、共感した。モテてる奴全員地獄に落ちろ!!堕ちろって!!堕ちてください!!

あと、ファンの美少女を抱いた話で、中島のEDが発覚し、勃たないならせめてと丁寧な前戯によって彼女を満足させていたが、EDが治って男根がバキバキになって喜んでた矢先にフラれた話は意味わからなさすぎて笑った。女の子側がEDにしか興味の無い子だったというオチだったけど、そんな人本当に居るのか。

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・三島由紀夫 / 不道徳教育講座

クッソ面白かった一冊。三島独自のユーモラスな視点で、世の倫理観や道徳観をバッサバッサ切っていく痛快なエッセイ。
印象に残ったのは、「肉体的教養」とかいう造語。いっぱしの男が精神的教養を身に着けているのはもちろんだが、それと同様、太鼓腹を自慢げに叩いて見せるのを良しとしない肉体的教養も身に着けて然るべきだ、みたいな論。目から鱗だった。
他にも、「知らない男と酒場へ行け」だの、「弱いものはいじめろ」だの、「女は殴れ」だの、莫大な数の批判の投書が三島の元へ届けられたことが安易に想像できるものばっかりで最高だった。

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mzfkさんと一緒に仕事をしていると会話がメインになるので、あまり本が読めない。だから小説はあまり読めなかった。
家に帰ってからはモンハンに誘われたりするので、わずかな時間を見つけて読んだ感じ。

10月の読書

・トルストイ / 光あるうち光の中を歩め

敬虔なキリスト信者パンフィリウスと、俗世間にどっぷり浸かった豪商ユリウスの生涯を描き、トルストイの考える人間生活の完成系を示す1作。
作中でユリウスとパンフィリウスはしばしば邂逅し、そのたび互いの生活について議論する。パンフィリウスはキリスト教的生活が平等の精神に基づき実践されていることを説き、ユリウスはそうしたキリスト教的生活の欺瞞を暴き批判する。
ユリウスは何事かに失敗するたびに思い直し、何度もパンフィリウスの元へ足を運びかけるが、すんでのところで啓蒙に出会いまた俗世間へと帰っていく。最期はとうとう自らを止めるものを押しのけ、キリスト教のコミューン内でその生涯を終える。

面白かった。トルストイは非常にストイックな思想でもって、全人類がキリスト教的生活を送るべき、いや送らざるを得ないのだと説いている。しかしはっきり言って僕はそんなのごめんだ。だってセックスとかしたらだめらしいし。
幸福に生きることを理性のみで追及するのであれば、キリスト教的生活もまた良いだろう。でも僕は、抗えぬ欲望や魑魅魍魎の跋扈するこの世を常に身近に感じながら、それでいて幸福でありたい。そうした方法を模索している。よってトルストイのこの思想は却下。

・闇金ウシジマくん本

言わずと知れた裏社会漫画「闇金ウシジマくん」のすべてが集約された一冊。真鍋昌平氏のロングインタビューはもちろん、1ブロガーの非常に鋭い考察、イラスト寄稿など、内容てんこもり。

闇金ウシジマくんは、尋常ではない回数の取材を重ねることによって、写実以上のリアリティを作品の中に落とし込んでいる。ただ世にこうした事実があるということを書くだけの、話題性だけは一丁前なクソ漫画はこの世に多々あるが、ウシジマくんは事実や実在の事件を踏まえたうえで、そこに生きる人々を克明に描き出すことに成功している。まさしく執念の作品だと思う。

ウシジマくんは最後、ヤクザでも債務者でもない単なる通り魔にやられ、死ぬ。その際に救急車を呼ぶか聞かれた彼は「いや、いい」とだけ答え、大量に出血しながら路上で死ぬ。
ダークヒーローとして、いや闇に生きる1個の人間として、これほど理にかなった最期もないと思う。これにて僕の中での真鍋昌平のイメージは、「めっちゃセンスある人」になった。

・ケーキの切れない非行少年たち

「軽度知的障害」という言葉を初めて知った。これは一般社会に馴染めるか馴染めないか微妙なラインであり、また明確に知的障害として支援が受けられるかどうかも微妙という厄介な病気である。
殺人を起こす人間は根っからの悪人だと僕たちは考えているが、そうではなく、加害者は「なぜ自分が捕まったのか」理解できていない場合が多い。ただ周囲から猛省を促されるからそうしているまでで、自分のしたことの何が悪いのかが本気で理解できない。筆者は著書の中で何度も「反省以前の問題」という言い回しを使っていた。

この本は、いわゆる啓蒙書である。僕らのようなイメージだけで物事を見る、考える人間たちに真実を教え、目を覚ましてくれる良い本である。
筆者は決して軽度知的障碍者を迫害するのではなく、もっと多くの人がそうした事実を知るべきで、病気に対する支援を用意すべきであると主張している。
何度教えても仕事ができない人、誰でもできる簡単なことが出来ない人は、単にやる気がないとか馬鹿だとか言われて迫害されるが、そうした迫害は新たな殺人犯を生むパターンと化している場合が多い。
自分以外はどうでもいいという考え方は、遅効性の毒みたいに社会を殺していくのだとよく分かった。

・東京貧困女子。

パパ活を行う現役女子大生、手取り10数万円で、ランドセルや制服は団地内で回し着しなければいけないシングルマザー……あらゆる世代のあらゆる貧困を取り上げ、日本の社会システムのクソさを糾弾する一冊。

読んで落ち込んだ。ほんとに落ち込んだ。
本書に登場する人たちは、単に運が悪いだけであり、それ以外は至って普通かもしくは人より優秀である。
ルックス抜群、超難関国立大学在籍、にも関わらず、お金が足りず風俗で働いている人がザラにいる。理由は、片親だったり毒親だったり。
国の社会システムと言うのは、多少の貧富の差こそあれ、ある一定のボーダーを超えてしまわないように面倒を見るものなんではないかと僕は考えている。資本主義が行き過ぎて、お金を持っている奴はとことん強く、持っていない人はとことん弱い構図が露骨に出来上がってしまっている。
低級、中級、上級と国民がきれいに3分割されてしまい、相互間の意思疎通は敵わない。中級の人間は低級の人間を指さして「自己責任」と罵り、上級国民を羨望あるいは憎悪の目で見る。
上級国民はそもそも低級国民が存在していることすら知らず、中級には興味がないか駒として扱うのがせいぜい。あとは私腹を肥やすのみ。
低級はひたすら少ない賃金でこき使われ、支援も望めず、最終的に体を壊したりして死んでしまう。これが国というなら笑わせるな。