思っているよりも幸せじゃないし、不幸ではもっとない

物憂い。三島由紀夫の「潮騒」を読み終えた。こういう恋愛だけがこの世に存在していれば良いと思う。「いつかまた読み返すリスト」の中に入れておいた。味噌汁をIHにかけながらぼさあっとしていたら沸騰させた。妻の置いていった手料理をレンチンして一人で食う。静寂。右の窓から薄暗い灰色の光が差し込んできて食卓を照らす。何この寂寥感?目の前には妻の置いていった置手紙がある。読みながら飯を食う。

「お帰り。お仕事お疲れ様です。本日のディナーは鶏のすき焼き風。作りすぎたことを許してほしい。納豆も食べて下さい。おみそスープふっとう注意。残ると思うからそのままにしておいて下さい。ぱーちゃんのディナーもいつも通り、温めてお湯をかけてから食べさせてあげて下さい。完食するまで見守ることを忘れずに。お弁当箱と食べ終わった食器とぱーちゃんの食器を洗って下さい。洗い残し厳禁。きゅっきゅ言うまで洗って下さい。足と脇をしっかり洗ってお風呂に入ってください。ゴロゴロする前にやることをやってしまって下さい。ビタミン不足のあなたは、オレンジを食べろ。しっかり噛んで完食して。そしてぱーちゃんには絶対にあげないで。それでは本日も、ぱーちゃんと仲良く良い子で待っていてください」。余白に独特のタッチでイヌとかウサギとかカタツムリとかカニが描かれている。

おれは荷物を携帯するのが嫌いだから鞄を持たない。できればポケットの中にも何も入れておきたくない。妻と出かけるときは、財布やスマホを妻の鞄の中に突っ込んで、その鞄はおれが持つ。本末転倒な気がする。鞄を持たないということは、荷物を持って出られないということでもあるし、荷物を持って帰れないということでもある。平和な一日を過ごして、別に何の印象も受けないわけではないが、いざこうして日記にしたためようとすると、必ず何かを失念しているような気がする。本当に書きたいことがなかなか出て来ず、無駄にダラダラ行を連ねて、無駄にダラダラ行を連ねる自分自身に苛々する。今日も一日、何も為せないまま終わった。