真鍋昌平 – 『アガペー』

「闇金ウシジマくん」が好きで、ずっと単行本を揃え続けてきた。
けど5月30日で発売された46巻が最終巻となり、15年の長い(長いのかな?)連載に幕を閉じた。

ウシジマくんに関しては、まぁ読書感想なんて書こうものならメチャクチャ長くなると思うので、今日は46巻と同時発売された短編集「アガペー」について書こうと思う。

はじめに

僕はウシジマくんを読みながら、「真鍋昌平って人すげぇ」と思ってた。誰でも持ってる心の闇とか、社会の在り方とか、そういう闇を描き出すのがとても上手い。その技術っていうのは単なるセンス頼みとかそんなんではなく、たくさんの取材に裏付けられているというのもかっこいい。
背景の異常なほど綿密な描き込み(背景ってアシスタントさんが書くんだっけ)と、登場人物の現実離れしすぎない程度の細かな表情の描き分け。それが織りなす都会の乾燥した空気感。
コマの1つ1つが緊張しているのに、すべてどこかさりげない感じ。すごく良いなと思った。

そんな人が短編を書いたらどうなるのかなと思って手に取った「アガペー」。ネタバレを避けつつ感想を書いていこうと思う。

1.「アガペー」

アイドルオタクとアイドル、両者の胸中とその繋がりを明らかにした作品。

僕はアイドルにはクソほど興味もない。握手券のためにCDを何百枚も買う人を見るとかなり引く。
そういう食わず嫌い、知らず嫌いの精神をブチ壊してくれた意味では読めて良かった作品だと思う。いやCD何百枚も買う人は相変わらず引くけど。

「なにもない人生だからせめて……頑張っている女の子を応援したい」

なかなか泣かせる台詞である。だけども、それそのものが商売として成り立っているというのがなんとも切ない。
世間的には「頑張ってる女の子」がそのまま商品になる。アイドルオタクはそれを買う。高いお金を払って。
アホみてーに高い出費の見返りは、「希望」。刹那的だし、そんなものあるのかないのかも分からない。でも彼らはアイドルに「自分が生きる意味」そのものを見出す。
それが分かれば、CD何百枚も買う人の気持ちだって少しは分かる。歩み寄ろうとは思わんがな。ただ分かる。

続いてアイドル側。やはりというかなんというか、彼女たちも例外なく苦労をしている。

「彼女たちはアイドルで居るために、女の子の一番大切な時期をファンに捧げている」

が故に、自分の価値そのものについていつも思い悩んでいる。あの子の方が可愛いとか売れてるとか、そういうことに常に心を惑わされなければいけない。
アイドルは商売だから、ファンがつかなければ商品として成り立たない。
キャバクラとかもそうで、彼女たちが高い時給を得られるのは「自分の尊厳に近いものを切り売りしているから」に他ならない。
お金のためなら口臭いジジィどもの話にも耳を傾けるし、何ならちょっとおっぱいくらい触らせてやる。そういう商売。
若くてきれいな女の子の時間+尊厳に近いもの=高給というのは、まぁ普通に考えれば分かる。

みんな分かってる。言葉にしないだけで。たまに分かってない人もいるけど。分かってて消費している。コンビニでタバコを買うのと一緒だ。

2.「ショッピングモール」

地方都市の若者が抱える鬱屈とした感情を切り取り、その生活を描き出した作品。

僕自身、地方都市に住んでいるから結構共感できる部分はあった。
話題と言えばネットの記事、休日に行く場所はイオン。退屈な毎日。

東京に住んでいる人にとってはなかなか想像しにくいかもしれないけど、地方というのはマジで想像以上になんもない。なんもないというのは、施設が無いとかいう一義的な意味ではなくて、多義的な意味でなんもない。
流行りも、人も、仕事も、なんもない。あるのはただ退屈。「スローライフ」とかいう言葉を少し前に見かけたけど、よくわからん。ゆっくり生きるにはまだちょっと早すぎないか。

地方は消費するものが無い。かといって生み出すものも無い。僕が文章を淡々と書き続けるのは、曲がりなりにも何かを作ってないと頭がイカれてしまいそうだから。
消費するものが無いという感覚は、つまらない。消費するしないは別として、そういうものが「ある」というだけで助かるのに。

やることがない。だから若い人はみんな東京に行く。行けばいいさ。
僕はもう金沢で住むと決めた。……いやまぁ家買ったからなんだけど。

3.「おなじ風景」

3.11の東日本大震災以降、被災者たちがどんな思いで生きているのかを綴った作品。

これを読んで思ったのが、「みんな生きている」ということ。どんな辛い状況でも、みんななんとかやっている。
だから大丈夫とかそういう話じゃなくて、ただ臨機応変に、苦しみながら生きている。
どんなひどい状況であっても、「そこで住む」と決めた以上は、奇跡なんてハナから信じず、ただ自分たちができることを淡々とこなしていくだけ。どんなに悔しくても、悲しくても、ただ自分たちができることをこなしていく。

こう書くと「人は強い」とか言いたくなるけど、人は弱いと思う。大津波によって多くの人の命は失われ、それは二度と戻らず、自分たちが良かれと思って作った原発によってこれからもずっと苦しんでいく。
それでもできることをこなしていくだけ。ただそれだけ。

生きるということの苛烈さ、本当に大切なものを見つけるという事。
僕にはまだはっきり理解できない。

4.「東京の女≪コ≫」

都会のカルマに埋もれる29歳女性写真家の生き様を描いた作品。

4作品の中で一番好きだったし、これを最後に持ってくるあたりセンスあるなぁと思った。
僕の想像する都会像は、ひとことで言えば「空虚」。いろんなものがたくさんあるけれど、たくさんありすぎるが故に自分が何を求めているのか分からなくなる。

大して興味もない男と暇つぶしのごとくセックスして、物であふれかえった部屋で精神安定剤を飲む。
強く生きている人たちは皆、頭のネジがどっか飛んでる。嫁を寝取られて興奮する変態とか、3股かけつつゆるゆる生きてるキノコヘッド系男子とか。
きちんと考えれば考えるほど、埋もれて行き辛くなる。

ミソなのは、「どうすれば良いか」はみんなだいたい分かっている。数式の答えは出てるけれど、その過程が分からない。だからたどり着けない。
金もないし仕事も無い、何をするにもまずお金。夢だなんだという前に、来月の家賃をちゃんと払いましょう。そういう人生。
後に何も置いていけない生活って、辛いだろうなと思う。消費して使い捨て、消費してはまた使い捨て。そうやって生きる人が、東京には一体何人居るんだろう。

クソみてぇな思惑が渦巻いて、個人の心を捻じ曲げる。倫理観さえ捨て去れば、それなりに生きられる社会で、それでもしょーもない倫理観を守り通す意味とは?
都会は人の弱さがよく見える場所だと思う。僕も東京で生まれていたら、きっとガリガリにやせ細って髪型はキノコヘッドで、目の下にクマ作りながらフリーターとかしてただろうなと思う。

終わりに

この短編集を読んだことで、より一層真鍋昌平への興味が深まった。バトルだ流血だ女の子だエロだみたいな漫画より、こういう「小説でやれ」みたいな漫画を描く人、居るんだなって思うと嬉しくなる。

これからどんな作品を世に出していくのか分からないけどチェックを怠らないようにしよう。次回作も楽しみにしてます!