3月の読書

81d55lrHwlL

・若松英輔 / 種まく人

若松英輔による、25篇のエッセイと詩が掲載されている。
この著者はつい最近知ったが、物の考え方や見方がどこか僕と似通っていて、すうっと胸に入ってくる、あるいは、どこか郷愁を交えつつ思い出すような感じがして、あっという間に読んでしまう。
多くの著書や人物を引用しながら、不可視の概念「コトバ」を顕現させようと試みる彼の、当然の敗北と、そこに宿る確かな誇りが垣間見える。
ここでひとつ、作中の詩を引用しておこうと思う。

この世で
すごい人にならなくてもいい
あちらの世で
愛される人になりなさい

そう あのひとは言った

数で
量れるものではなく
量り得ないものを
探しなさい

語ることよりも
黙って行うことで
自分を表現できるように
なりなさい

とも あのひとは言った

わたしのこころに
刻まれた
消えることのない
人生の戒律

凡庸で、年寄り臭く、宗教じみた詩である。通俗的ですらあるかもしれない。
若い人にとってこれは、あんまり退屈過ぎる。見栄えもクソもない。
だが、著者が本書を通して訴えているのは「言葉」ではない。「コトバ」である。それは常に不可視であり、だからこそ、紙の上で煌びやかな言葉を躍らせることは、むしろコトバの顕現を阻害してしまう。
ただ水を飲むのに、どうして豪華なコップが要ろうか?

 

81JtIMv+5wL

・若松英輔 / 幸福論

この著者が、けっこう詩作も行っていて、詩集も出しているというので、興味をそそられて読んでみた。
まともに詩を読むのはこれが初だったので、判断基準の乏しいまま批評するが、これは詩というより警句みたいに思える。いやむしろ、詩とは警句に他ならないのだろうか。
抒情の入り込む余地のない、何かカラカラに乾いたこれら多くの詩は、文字通り、紙の上に書かれた平面的な奥行きしか持っていない。コトバの顕現に凡庸が用いざるを得ないのはよく分かるが、したって、ここに収められているものは別に詩という形をとらなくても良いように思う。
詩を啓蒙の一環として使うというのは、何か、すごく下品な気がする。この人、文章はとても良いものを書くのだから、啓蒙をするならそっちのほうがいいと思う。詩作をやるなとは言わないが。

 

418AWNDQMFL._SX320_BO1,204,203,200_

・町田康 / くっすん大黒

はじめて手に取る作家。文体にものすごくクセがあったが、普通に読めた。
随所に差し挟まれるユーモアのクオリティが高くて面白かった。どこかしらズレている感じも、浮遊感があって良かった。
ただ、いかんせん文体のクセがすごい。一度流れに乗ってしまえばスイスイいけるが、そういかないうちは苦労する。ただこれが、世界観の構成に一役買っているのもまた事実。浮世離れしたお話には、浮世離れした文体を、といったところか……。
一番好きなのは、海岸で亀を爆発させるシーン。「そうだなあ。亀も爆発したし」の一言がガツンときた。