【前編】はじめての白川郷

みなさんは、学生時代をどのようにして過ごしただろうか。
勉強、部活、そして恋愛と、さぞかし素晴らしい時間を過ごしたことだろうと思う。

当の僕はというと、地元で有名な工業高校に進学し、前歯の裏をベロで舐めながら虚空を見つめるだけの暗澹とした日々を送っていた。

少し話がずれるが、この市立高校は自転車の傘差し運転を撲滅することに命を懸けており、雨の日は何が何でも合羽を着させて帰宅させてくる。
べつにそれはいいけど、問題は「合羽が無ければ意地でも自転車に乗らせてもらえない」こと。
いくら「濡れて帰りますから!」と言っても聞き入れられないので、詰みに近い状態が発生する。
そうなると、大雨の中傘も差さずに徒歩で30分ほどかけて帰宅するか、親に迎えにきてもらうしか方法が無くなるのだ。
歩くにしても、長靴なんてものは履いてないし、ペタペタに履き古したスニーカーで水たまりだらけの街を攻略するハメになる。
そうなれば当然、家に帰る頃には「服着たまま風呂入った?」レベルの濡れ方になる。

 

あぁ〜あほんと思い出しただけでもクソ。

 

そのため、一部の脳筋の間では、友達と結託してチャリをパワーで持ち上げ、柵から駐輪場の外へ出して帰宅するという「プリズン・ブレイク」が横行した。
僕も一度だけやったことがあるが、「ただ学校から帰るだけで、なぜこんなことをしなくてはいけないんだ」と思い、それからはやらなくなった。

その後、学校が県から傘差し運転ゼロの表彰を受けたという話を聞いて、社会の構図というものがよく分かった気がする。

大人の作る世界などたかが知れてると。

 

前置きが長くなったが、そんな感じで僕は高校時代の記憶というとクソな思い出しかない。

……ある1つを除いては。

冬になると必ず思い出す、あのバカげた青春劇。
今日はその話をしよう。

 

 

 

—▼—

 

 

 

面白かった中学校生活に終止符を打った僕たちは、それぞれ別々の高校に進学していた。
僕は上述の通り工業高校へ、Bショウくんは私立高校へ、jyoくんは僕と同じ学校へ入る予定だったが、素行不良のため落とされ、代わりに私立進学校へと入学した。
学校が違っても、所詮は学生。日のスケジュールは同じだ。
相変わらず集まって遊んでいた僕たちだったが、ある日Bショウくんが切り出した。

「この3人で旅行しないか?」

中学生の時には無かったもの、財力。
当時の僕たちにはそれが形を持ちつつあった。

僕は学校が禁止していたので出来なかったが、Bショウくんとjyoくんはバイトで小銭を稼いでいたのだ。
かくいう僕も両親から小遣いをもらっていたので、ある程度の自由は効いた。

当時、退屈が最大の敵だった僕たちにとって、それを断る理由はどこにもなかった。

「行くしかねぇ!」

こうして、三馬鹿によるカスみてぇな貧乏旅行が幕を開けた。

 

 

 

—▼—

 

 

 

「おれ『ひぐらしのなく頃に』見てから、ずっと聖地巡礼したくって」とBショウくん。

「舞台どこ?」と僕。

「岐阜?」

「白川郷じゃなかった?」とjyoくん。

こんな感じで、目的地は意外とあっさり決まった。岐阜県の白川郷
県の北西、大野郡にある村で、世界遺産にも登録されている。

正直、理由はどうあれ目的地のチョイスは正解だったと思う。
たとえばこれが東北とかになってたら、割と普通に死んでいたと思うから。

詳細はぼかすが僕の地元はは岐阜にほど近いところに位置していて、車なら1時間半もあれば到着する。

旅行計画は以下の通り。

・白川郷までは直通バスが出ているのでそれを利用して向かう
・金が無いので民宿には泊まれない、だからテントを設営してそこで寝泊りする
・到着したらまず手ごろな場所を見つけてテントを設営し、そこを拠点にして観光する

ここで補足を入れておくと、白川郷は豪雪地帯として知られている。
シティボーイ、シティガールの皆様方に置かれてはなかなか想像しにくいとは思うが、冬季はナチュラルに雪が2mくらい積もる。
これは「山間部で」とかそういう話じゃなくて、2mの雪が村をすっぽり包んでしまうという意味。
だから、村に建っている住宅はみんな『合掌造り』という、クッソ勾配のきつい独特な形状の屋根をしていて、豪雪を前提に建築されている。
つまり、雪がエグい。ついでに寒さもヤバい。

 

おわかりいただけるだろうか?
僕たちはテントを設営して寝泊りしようと考えていたのだ。
それも、本格的なテントなんかではない。とりあえず1シーズン持てば良い方くらいの、ほぼほぼ使い捨てみたいなやっすいテントだ。しかも小さい。

僕たちは完全にナメきっていた。白川郷、もとい雪、もとい自然を。

 

計画を練り終えた僕たちは、各々「準備は怠らないように」と言い合い、期待に胸を高鳴らせながら当日を待ったのだった。

 

…後編へ続く。

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